97人が本棚に入れています
本棚に追加
「話があるのは本当。まだ会ってはいないけど」
戻る前からその話はあったし、島崎先生にもそれは話した覚えがある。
彼にそれを話すとは思って無かった。
「会うなよ。絶対行くな」
ガタッと音がして片手を掴まれた。コタツの上の湯のみが軽く揺れた。
「戻って来て。俺にして。結婚を考えるなら、相手は俺だろ?」
真っ直ぐな言葉に眩暈がした。『結婚』なんて言葉、彼にはまだ似合わない。
「私もう、全部引き払ったんだよ」
帰ったって一体なにをすればいいのか。無職の私には、部屋を借りることすら厳しい。すると掴まれた手が緩んで、彼は顔をしかめた。
「それは俺も、だよね……」
『あっ』と思い、彼を見つめた。
そうなんだけど、今の言葉はそうじゃない。
どうして私はいつもこうなの。傷つけなくていい事で、彼を傷つけてしまう。
「違うの。そういう意味じゃなくて。まだ見つけられてないの。教師を辞めてこの先なにが……」
――違う。
私は途中で言葉を止めた。
最初のコメントを投稿しよう!