雪に溶ける

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「それこそ今更だよ」 「そうね……けれどそう言われたら私は女の顔じゃなく、先生の顔をするしかないって思ったのよ」 私の言葉で彼は押し黙った。けれど手は握ったまま。 静かだった。外も、この場所も、私の心も。 「見かけた時って貴方の誕生日の後だったのよね」 「そうなんだ?」 「うん。だから私、浮足立ってたの。そして、怖くなっていった」 思い返しながら、少しずつ言葉を零してく。 彼の誕生日、私達はとうとう一線を超えた。 機会は幾らでもあった。でもやはりそこは超えてはいけない気がしてた。 「そういう目的じゃないから。俺、本気だし」 彼なりの意思表示だったんだろう。その気持ちが嬉しかった。そしてそれは自分自身の抑制にも繋がった。 本当はそんなの取っ払ってしまいたい癖に、大人の仮面で欠片も見せない。 彼は高校を卒業した。 先へ進みたい。それは自然に湧き上がって当然の気持ちだと思う。
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