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外に出ると音が無い世界だった。
視界が白く覆われ、吐く息まで白く消える。
コートを羽織って誘われるように玄関の門を開け、道路の方へと歩いた。
見上げると灰色の空は重たく、光を奪う程の厚さで覆ってる。もうとっくに日は昇ってる筈なのに薄暗い。
真っ直ぐに舞いもせずに降る雪の奥から、微かに音が聞こえた。
サクッ、サクッ、サクッ。
まるで刻みつけるようにゆっくりと。
その音に誘われるように私は音の鳴る方角へと顔を向けた。そして……その姿を捉えて目を瞠る。
映し出された風景に浮かび上がる姿は、絶対に見間違わない人。
彼は下を向いたまま。
足元を確認しながら歩いてくるので、私には気付いて無いんじゃないだろうか。私は身動きせず、近付くその姿を見つめ続けた。
音がピタリと止んだ。
その顔が、ゆっくりと上がってく。
目が、合った。
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