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「貴女は俺の、だよ」
静かな声だった。
けれど支配するような強い言葉に、私は従うように頷く。無意識だった。
そんな私に彼はフッと笑みを零した。透けるような白く綺麗な微笑が、蠱惑的に映る。
色んなものから逃げていた。
世間体、年の差、溢れる不安から。
でもそんなのは全て溶けて、残った残骸にはむき出しの心。
気付けば雪は止み、厚い雲に阻まれた太陽が、柔らかな光で景色を照らす。
彼はその景色の中に消えていった。
もしこの先彼が訪れなくても、私は追わずにいられないだろう。心のままに、貴方の元へ。
踵を返して家へと戻る。
瞬間冷たい風が吹き抜けたが、不思議と寒さは感じなかった。
―― 終 ――
2018.06.08 雛姫
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