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「なにしに……来たの?」
私がそう言うと、ハッという強めの声が吐息と共に吐き出された。その声に思わずビクッと体を揺らしてしまう。
だってその声は呆れるような、嘲るような、そんな風に感じたから。
顔を上げた彼の目には力があり、視線を逸らせない。怯えるように彼を見る私に、彼は静かに言い放った。
「なにって、攫いに来たに決まってんでしょ」
ドクンと自分の心臓の音が重く響いた。
強気なその言葉とは裏腹に、彼が私を見つめる表情は切なげで苦しそうで、私の胸を締めあげていく。
「勝手に俺の前からいなくなって、お見合い? 冗談が過ぎるよ」
たじろぐ私の手首を彼は素早く掴んだ。
伝わってくるのは、熱。
深々と降り積もるこの雪景色はこんなにも凍る寒さなのに、彼だけが熱い。
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