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しかもそれが、里香の知る人物だったから驚きだ。
「や、安川生命の?」
里香の働くマンションギャラリーで来場客の資金計画の相談にのっている生命保険会社から出向している女性だった。
職場での、大人っぽく洗練されたイメージが、今は、すっぴんのせいか、幼く見えた。しかし、美人には変わりない。
――もしかして、佐野さんの……?
「あら? あなたはうっかりものでいつも奇抜な服装の、いえ、おおらかで個性的な服装をした、三隅地所の新山さん」
里香は、頭のてっぺんからつま先までジロジロと見られ居心地が悪くなる。しかし、全身蛍光イエローの女が目の前にいたらそうなるのは仕方ないかもしれない。
「ああ、わっくんに会いに来たんですよね?」
――わっくん!?
「史子、どうした?」
部屋の中から聞こえたその声に、里香の鼓動は否応なしに速くなる。
――え、まさか……? わっくん!?(笑)
里香は笑いをこらえるために息を止めた。
いかにもなグレーのスウェットの上下で髭面、ねずみ男のような男が出てきたものだから、里香は耐えられずに「ぶはあっ」と大きく息を吐く。
「王子様どころか、おっさん!」
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