◆花園さんの秘密

29/31
514人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ
 ――結婚に興味がないと言いながら、史子も子供もいるじゃないですか!  再び、頬に冷たい雫。  ――別に、佐野さんが結婚していようとしてまいと私には関係ありませんが!  またしても、ぽつり。  ――うっとうしいです!  里香は立ち止まり空を見上げる。 「雨……」  そこに、ぼとり、大粒の雫――、「わーっ」、あっという間にどしゃぶりになる。  里香は急いでシャッターの降りた店舗の軒下に逃れた。濡れた体をハンカチでぬぐいながら、考えることは……。  ――佐野さんが結婚していたなんて、まだ信じられません。  なぜか、佐野のことばかり。  それから四~五分が経過したころ。 「新山さん!」  サンダルを履いたねずみ男が水たまりを器用によけながら向かってくるではないか。  ――佐野さん、今日はとてつもなくダサいので、加工させていただきます……。  里香は、無理やりに佐野を、さながら王子様のようにふるまう、いつもの爽やかで胡散臭い姿へと脳内で置き換えた。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!