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――こんな雨の中、どうして私を追ってきたりするんですか?
里香の頭の中に切ないメロディーが流れ始める。印象的なギターリフから始まる、少し前にCMソングとしても使われていたあの曲だ。
『気持ちを告げることできず ただ僕たちは 出会って 別れていく』
サビの歌詞は、里香の胸をきゅっと締め付けた。
するとどうだろう、現実までもドラマチックになる。追ってくる佐野の姿が映画のクライマックスシーンのようにスローモーションに見え……実際は、水たまりをよけるのに、そろそろと歩いているだけだったが。
――修正が追い付きません……。
そこで、ラブバラードは一旦停止した。しかし。
「新山さん……!」
佐野の目は潤んで揺れていた。大きく肩を揺らし、息苦しそうな呼吸。熱を帯びたその表情に、里香の内なるボルテージも上がっていく。
「佐野さん、私……」
そして、あろうことか。
佐野が里香の手を自らの手で包み込んだ。
――あたたかい、です……。
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