◆花園さんの秘密

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 正確には、佐野はただ、持ってきた傘の柄を里香に握らせただけなのだが……。 「風邪ひくといけないから、この傘持って帰ってください」  思いがけずかけられた優しい言葉に、里香はさらに心を乱してしまう。 「私のためにわざわざ」 「史子が持っていけと……」  そこで里香はやっと現実に引き戻される。  ――史子、史子、史子~!  相変わらず心の中はもやもやとしているけれど。  ――ひとつの傘に入れるのは、きっと、恋人や家族だけなんですね……。  こんな気持ちになるのは佐野のせいではないはずだ、自分だけが一人だと思い知ってつらくなっただけだ、そう里香は結論付けた。  すると、余計にみじめになってくる。 「なんで私は結婚できないんですか~!」  里香は捨て台詞とともに、佐野から渡されたビニール傘を奪うようにして取り上げると、雨の中を疾走した。 「あ……」  一本しか傘が無かったせいで、その後雨に打たれながらアパートに戻った佐野は風邪を再発し、それからさらに二日ほど仕事を欠勤した――。
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