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なんて奇麗なコが来たんだろうと思った。
ある夏の午後、私の住むこの檻のような部屋に連れてこられたのは、色白で、酷く体の軽そうなコだった。
身が軽いのではない。本当に飛んでいってしまいそうな、“壊れやすい”印象だった。
風をよく孕みそうな白い衣服は、そのコを少女に見せたけれど、私を見て小さく上げた声は少年のそれだった。
「こっ…こんにちは。」
こちらを窺うような目と、媚びるような挨拶。
このコが私を恐れているのがわかる。ここに来る者は皆そうだ。自ら進んで来る者などそうは居まい。
時折そんなこともあるが、それは皆、“生”を漲らせた男ばかりで、私を抱いたあとの余韻を楽しむこともなく消えるのだった。
「あの…。」
返事もなく、ただ見据えられるだけの時間に堪えきれなくなったのだろう。美しい少年は、へらへらとも見える笑みを浮かべて話し掛けてきた。
「僕、こういう所に住むのは初めてで…あの、よろしくお願いしますね。」
なにを言っているのだろう。無理やり連れてこられたことは明白なのに、こんなことを言うなんて。
ここで暮らしたい者など居るものか。私だってこんな所、来たくはなかった。
今まで来た者達は皆、私の前からすぐに消えていった。それだけここは…イヤな場所なのだ。
それなのに少年は、ここに住むと言った。私と住むと。
その白白しさに、あの男達とは違う生の漲ぎりを感じる。執着のような、野心のような。
彼は、ここを出ることを諦めていないのだ。私を恐れているくせに。私に怯えているくせに。
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