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煮えきれない思いを抱え、慶太は家に帰った。妻が迎えてくれる。
「お帰りなさい。早かったのね」
「ああ」
悶々としている慶太を哀れんだのか、課長が早めに帰してくれたのだ。四歳の息子が起きている時間に帰ったのは、久しぶりだ。
「疲れているところ悪いんだけど、陽斗をお風呂に入れてやってくれない? ぐずって言うこと聞かないのよ」
「珍しいな」
息子は、男の子にしてはおとなしく、年中に上がってからは、それほど手がかからなかった。
「私が聞いても教えてくれないんだけど、お友達と喧嘩でもしたんじゃないかしら。幼稚園の先生は何も言ってなかったから、大したことじゃないと思うんだけど」
「そうか」
喧嘩の一つでもする方が、元気があっていい。
けれど、その悔しさなり、不平不満なりを親にも先生にも言えず、いつまでもぐずぐずしているのは、自分の子らしいと言えた。慶太も、夜になってから日中の出来事を思い出して泣き出すような子供だった。
明るく、裏表ない妻には、理解しづらい性格かもしれない。
「陽斗、お父さんと風呂に入るか」
「うん」
おもちゃを手にごろごろしていた陽斗は、慶太が誘うとすんなり起き上がった。
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