母の故郷

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母の故郷

私はモデル兼タレントのレナである。父はR国から来た。母は港町の人である。私は両親の勧めでオーディションを受けて合格し、所属事務所の元でタレント活動をしている。モデルとして新作の衣装を着てステージを颯爽と歩いたり、バラエティ番組のひな壇に座ったり、ドラマに出演したり、雑誌の表紙に載ったり、ブログ記事を書いて出版したりと多岐多様な活動をしている。 今ではすっかり有名人になり、外を歩く時はマネージャー同伴で行動する。私の顔は画像を通して世間に知られているので、帽子やサングラス、スカーフは欠かせない。パパラッチ対策に影武者を何人も使って、自分はその間に用を済ませる。 今こそモテるけど、かつてはそうではなかった。私は地方都市出身なので、東京とは訳が違う。観光客すら来ない田舎だから、住民同士の結びつきが強い。言い方を変えれば排他的なムラ社会である。方言しか通らない地域だから、訛り方の違いで人を区別する所がある。 アクセントがどうだのイントネーションがこうだのと口泡を吹かせる者ばかりだから、外国人を見たら上に下に天下がひっくり返るような大騒ぎが起こる。彼らに「出て行け」と口で怒鳴るのはまだ軽い。そこら辺の物を投げつけるほど民度低い。「こんな所へ二度と来るか!この土人どもめ!」と怒って帰っていく旅行者・転勤族が多い。 おまけに、ここは田んぼが広がる地域だから長男社会である。次男以下は都会へ出て行き、長男が嫁を貰って後を継ぐ仕組みになっている。当然、学問・芸術的な仕事が商売として成り立たない。大学進学で上京するのが当然な土地柄、頭の良い者や顔が綺麗な者、絵や歌が上手い者は居づらい。それで、百姓根性のお山の大将しかいない。 海に面した土地だから、沿岸部は漁師町である。内陸部の農産物と海から採った海産物が市に並ぶ。そこへ昔からの漁港を再開発した貿易港が開業してから、外国船が入るようになった。当然ながら、下船した船員たちが買い物をしに街へ出かける。 自分の町内から外へ出たことがない者たちには、外国船の船員たちが目障りである。しかし、国には逆らえないのでどうにもならない。 私は、外国船の船員として来た父と地元住民の娘である母との間に生まれた。これから私の生い立ちについて語るのである。
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