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崎山は、先ほどイタリアレストランで飲んだボヘミアンネグロを思い出し注文した。
中央のストリップ台では、若いダンサーが互いの性器にクリームを塗り舐め合っている。
崎山はビール代とともにチップを差し出すと、機嫌を良くしたのだろうか、ダニーは不敵な笑みを浮かべながらこう告げた。
「こんなにくれるのか、ありがとう。ブラザー、お礼に君に最高の子を連れて来るよ」
すると、つい先ほどまでストリップ台で踊っていたダンサーが崎山の目の前に現れた。
派手な化粧を施し素顔が確認しづらいが、器量が良く、ラテンの血を彷彿させた。
「店一番の子だぜ。じゃあ、あとは楽しんでくれ」
そう言うとダニーは立ち去ってしまった。
崎山の股間の上に跨り、人目を憚ることなく腰を振るダンサー。
人工的に膨らんだ乳房を崎山に触らせ、仕切りにホテルに行こうと誘いかける。
崎山は、そんなダンサーの肩越しに店内を見渡した。薄暗い店内の至る所で、胸や股に一ドル札を挟む常連客たち。
皆、思い思いの楽しみ方があるようだ。
「ねえ、早く楽しいことしましょうよ」
尚も、崎山の上で誘惑を続けるダンサー。
しかし、このとき崎山はある違和感を抱きはじめていた。
「ダニー、ちょっといいかな」
崎山は手をあげてダニーを合図した。
慌ててダニーが駆け寄ると、
「あれ、今の子は気に入らなかったのかい?」
心配そうに問うた。ダンサーも、罰が悪そうに二人のやりとりを見つめている。
「いや、質問があるんだが…」
激しい音楽が鳴り響く店内。崎山はダニーに顔を近付けてこう問うた。
「この店には女の子はいないのか」
「女?」
頓狂な声を上げるダニー。すると、
「いるわけないだろ。ここはゲイバーだぞ」
突っ慳貪に言い放った。
「ゲイ?」
「ああ、客もダンサーも含め、ここに来る奴は皆、ゲイだ」
崎山は、はっと我に返った。
どうやら来る店を間違えたようだ
メキシコ最大の赤線地帯。
多くのクラブが林立し、似通った外装の建物が並ぶ。高級クラブ「ホンコン」を目指して来訪した訳だが、初見の崎山は隣接するゲイ御用達の「マカオ」クラブに入店したのである。店名からしても紛らわしい。
「そ、そうか。もしや君もゲイなのかい?」
「そうだよ」
ダニーは屈託のない笑顔で返事した。
「どうする? さっきの子が君のことを偉く気に入ったらしく、一緒にホテルに行きたいとうるさいのだよ」
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