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横浜野毛小路にある居酒屋「虎二郎」では、今時、珍しいブラウン管テレビから、伝統の巨人阪神戦の戦況が映し出されていた。満員の甲子園球場は、ビジター席にも虎模様を付したファンが溢れ寄るほど、割れんばかりの声援が送られている。その様子を、苦虫を噛み潰した表情で見つめる二人の中年男性の姿があった。
「後半戦に差し掛かったというのに、まだ上がってこんな」
安徳工機人事部部長、人呼んで人事部のジョーこと城山丈一郎は、片肘をつきながらジョッキを持ち上げると、軽く口につけた。
「ええ、一方でライバル巨人軍は、主力が怪我で離脱しているというのに、首位を独走中。選手層の厚さが違いますな」
有給を使って甲子園球場に通う根っからの阪神通、掛布茂雄が調子を合わせて言った。
オールスターゲームが終わった七月下旬。甲子園球場で行われた巨人対阪神三連戦は、一試合目、二試合目ともに巨人が快勝し、三試合目の今日も、初回から先頭の坂本が本塁打で先制するなど、幸先の良い攻撃を続けている。
長野が肩の張りで故障者リストに入り、腰痛を発症した阿部は一ヶ月間戦線を離れる中、控え選手らが好調を維持していた。
「ベテランが離脱しても、若手がチームを引っ張る。ベテランと若手が相互に補完しあい、試合をつくる。強豪は常に優秀な選手が集まり、新陳代謝を促す」
「ええ、一方、我が阪神は、金本が抜け、新井が抜け、助っ人外国人は一年も経たずに祖国に帰り、若手は育たず、挙げ句の果てにファンが離れていく。悪循環です」
「まるでうちの会社と一緒やな」
ジョーは再び、ジョッキを持つと、半分残ったビールを一気に喉に流し込んだ。
「若手を育てる環境が整っていないから、残り少ないベテランがチームを牽引しなければならない。最近は選手寿命も長くなったが、老害化したベテランがチーム内で幅を利かせ、新人が寄り付きにくい雰囲気を作ってしまう。すると、優秀な若手は離れていく」
掛布は、自社内で発生している問題を、現状の阪神を引き合いにして例えた。
戦前、財閥グループの一角であった時期を含めると八十年近い歴史を誇る安徳工機であるが、バブル崩壊以降に新卒採用を渋ったため、中堅層の空洞化が生じ、年配社員が社内実権を握る始末。若手の芽は潰され、重苦しい空気が漂っていた。
新卒の学生に敬遠される、若い管理職が虐めにあう、埋まらない世代間格差、技術伝承が失敗。
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