第二十六章 鈴木實⑭

1/8
前へ
/8ページ
次へ

第二十六章 鈴木實⑭

豪州、蘭印の広大な制空権を握り続けた名指揮官 伝手を頼ってレコード会社へ。一目ぼれした伴侶と新生活をスタート  進退窮まった鈴木さんは昭和二十二(一九四七)年三月に上京し、なにか新しい就職の手がかりでもあれば、と藁をもつかむ思いで、キングレコードの総務部長を務めていた従兄の板垣勝三郎氏を勤務先に訪ねた。ところがこの日のうちに、鈴木さんに大きな転機が訪れる。  ここでたまたま会った同社の専務・小倉政博氏が、戦時中、海軍のセレベス民政府の司政官として、マカッサルにいたという。鈴木さんが、昭和十八(一九四三)年、二〇二空の飛行隊長としてマカッサルにもいたことがあると話すと、小倉氏は、 「ああ、あなた、どこかで見たことのある顔だと思ったんだ。ヒゲ部隊の隊長か」  と、よく覚えていた。二〇二空の搭乗員たちは鈴木さんの命令で髭を伸ばし、「ヒゲ部隊」と称していたことは前に述べた通りである。小倉氏は鈴木さんに、 「あなたの部隊がマカッサルに来たら、料亭から何から、客はみんな逃げ出しちゃう。荒っぽいし飲んだら暴れるしで、みんな怖れてましたよ。上空哨戒は頼もしかったですがね」  と言い、互いの戦地での話にすっかり意気投合した。そして、その日のうちにキングレコードの親会社である講談社の野間省一社主に引き合わされ、講談社が、占領軍の方針による財閥解体をチャンスととらえて設立準備中の貿易会社、キング商事に「国内貿易課長」の肩書きで入社することになった。ところが翌二十三(一九四八)年、キングレコードのほうに販売課長の欠員が出たのでそちらに回ることになり、鈴木さんは、思いもよらずレコード会社に勤めることになる。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加