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1 良いモン? 悪モン?
「わにぶちくーん、わにぶちしょうごくーん」
顔をしかめ、恥じらいを覚えながら、待合室のベンチから立ち上がり、受付の原さんに歩み寄る。
「原さん、しょうごくーん、はやめてくれよ」と文句を言う。
「いいじゃない。私から見たら、まだまだしょうごくんよ」
原さんが、キーボードを叩き、プリントアウトされた紙をバインダーに挟むと、俺に差し出してきた。そこには、最近風邪を引いていないか? 頓服している薬がないか? 過去に予防接種をして体調を崩したことがないか? などの質問が書かれている。
俺は仕事で物騒なことをしている。相手に暴行を加えて情報を吐かせることもあれば、その逆に人を守るために動いたりする。以前、ケーキを食べに行く、なんて変な仕事もあったが、大体は血が流れる危ない仕事だ。
そんな業界でも、インフルエンザは脅威だ。去年は大流行してしまい、仕事を受けられない者が続出した。日頃から鍛えているし、筋肉と体力には自信があるが、俺も去年、ウィルスには勝てなかった。
業界全体で、今年は予防接種を受けようという風潮が生まれている。
「これ、書いたらお姉さんのところに持ってきてね」
「お姉さんがいるのか?」
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