1 良いモン? 悪モン?

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「いるじゃない、ここに」  原さんが、どんっと自分の胸を鼓舞するようにたたく。  子供の頃から通っている内科のクリニックで、受付の原さんからしたら、俺は何歳になっても子供のままなのだろう。  だが、俺はもう子供ではない。だから、原さんも、もうお姉さんではない。と言うか、俺が初めて会った時から、原さんは既に中年で、お姉さんではなかった。  小学校の時に同級生の、鬼沢新太郎(おにざわしんたろう)という、ものものしい名前の同級生がいた。彼とは、卒業以来交流がないのだが、彼の母親にはお世話になっている。俺が物騒な仕事をしているように、鬼沢先生も人を治療する以外の仕事をしていた。同級生の母親と、予期せぬ再会をしたことには驚いたが、向こうもプロとして接してくれて、たまに睡眠薬や体が痺れる薬など、仕事に必要な薬をもらうことがある。  それと、一番重要なことが、鬼沢先生は日本一注射が上手いということだ。俺は注射が大嫌いだから、あっという間に終わるし痛くないから、いつも神業だと感動している。    問診表を眺めながら、待ち合いスペースのベンチに腰かける。     
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