1 良いモン? 悪モン?

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 ベンチが四つ並ぶ程度の狭い待ち合いスペースには、テレビがあり、そこで映画を流していた。未来から殺人ロボットが送られて来て、女革命家となる主人公を殺しにくる話だ。俺はその、ロボット役の主演俳優と似ているとよく言われるので、なんとなく嬉しくなる。  問診票に視線を落とす。熱は平熱、食欲も、便の調子も普通だ。まどろっこしいから、注射をしてくれ、という選択があったら、迷わずそこだけ○で囲むんだがな、といつも思う。ほぼ読まずにどうせ丸だ、と書き込んでいると、幼い声が耳に入ってきた。 「きのうのクマさんいたがってたね」 「まぁ、でもクマさんは悪モンだからしょうがないよ」 「わるいことしたら、やっつけないとだもんね。トリさんのときみたいに、上手くいってよかった」 「わるいことしたら、やっつけないとだよ」 「じんるいのためだもんね」 「じんるいのためだよ」  一体なんの話だ? 映画の話か? と思ったが、あの映画に熊や鳥は登場しない。ちらりと隣をみる。  そこには、水色のコートとピンクのコートを着た少年と少女が座り、絵本を開いていた。おそらく、兄妹だろう。小学校低学年だと思うが、「人類の為」とは大仰なことを言うな、と可笑しく思う。  以前、子どもは勧善懲悪の絵本が好きだという話を、心理学を学ぶ大学教授から聞いたことがある。俺も子供のときは、特撮が好きだったなぁ、と赤や銀色をした全身スーツに身を包んだヒーローを思い描く。 「お兄さんは、良いモン? 悪モン?」     
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