3 俺は良いもんだと思う?

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3 俺は良いもんだと思う?

       ☆  診察室を出て、右腕の注射の跡を揉む。絆創膏に、うっすらと、血の斑点が浮き出ていた。ここの注射は、刺さったことすら気づかないくらい上手い。いつの間にか終わっていた。この技術を身につけられれば、仕事で役立つのでは? と毎回思うが、俺は細かい作業に向いていないから無理だろう。  待合室に戻ると、壁にかかっているテレビはアニメに変わっていた。悪いモンスターに憑依され、化け物になってしまった人間が主人公に倒され、大袈裟な火花をあげる。ハートが先端についた棒を振るだけで敵が倒れるなんて便利そうだが、あんな道具があっても俺は恥ずかしくて使えないな、と苦笑する。 「あっ、良いモンのお兄ちゃんおかえり」 「おかえり」  俺に気づいた兄妹が声をかけてきたので、「あぁ、ただいま」と返事をする。妹の方が、絵本を持っていた。俺の視線に気づくと、恥ずかしそうに自分の背中に持っていった。  絵本の表紙に、見覚えがある。「ノアの方舟か」 「知ってるの?」 「あの、船に生き物を乗せて洪水を生き残ったって話だろ?」 「あと、正しい人間ね」 「そうだっけ?」     
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