1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
3 俺は良いもんだと思う?
☆
診察室を出て、右腕の注射の跡を揉む。絆創膏に、うっすらと、血の斑点が浮き出ていた。ここの注射は、刺さったことすら気づかないくらい上手い。いつの間にか終わっていた。この技術を身につけられれば、仕事で役立つのでは? と毎回思うが、俺は細かい作業に向いていないから無理だろう。
待合室に戻ると、壁にかかっているテレビはアニメに変わっていた。悪いモンスターに憑依され、化け物になってしまった人間が主人公に倒され、大袈裟な火花をあげる。ハートが先端についた棒を振るだけで敵が倒れるなんて便利そうだが、あんな道具があっても俺は恥ずかしくて使えないな、と苦笑する。
「あっ、良いモンのお兄ちゃんおかえり」
「おかえり」
俺に気づいた兄妹が声をかけてきたので、「あぁ、ただいま」と返事をする。妹の方が、絵本を持っていた。俺の視線に気づくと、恥ずかしそうに自分の背中に持っていった。
絵本の表紙に、見覚えがある。「ノアの方舟か」
「知ってるの?」
「あの、船に生き物を乗せて洪水を生き残ったって話だろ?」
「あと、正しい人間ね」
「そうだっけ?」
最初のコメントを投稿しよう!