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華弥は惜しむように腕の中の赤ん坊を抱きしめると、お包みの中に漆黒の扇子を一本差し込み赤ん坊を仁へと差し出した。
仁が受け取ったのは兄の真貴であった。
「確かにお預かり致しました。
私はもう参ります。
義兄上様、姉上様、どうぞご無事で」
「頼むぞ。仁」
「私達の分まで、どうか愛してあげて・・・」
そう言って涙を浮かべる姉夫婦を断ち切るように、仁は懐に赤ん坊をいれるとそのまま炎の中へと消えた。
仁を見送った誠達が自らの懐にもう一人の赤ん坊を入れると、乳母の泰乃が華弥支え立ち上がらせる。
「脱出経路は仁が確保しているはずだ。身を屈めて進むのだ」
室が炎に包まれたのは、三人が脱出してすぐの事であった。
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