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今が一体何時なのかもわからないが、夜明け前の太陽と月が混同する薄明りのなかをちらほらと家々の戸口から出てくる人々。
真貴はまるで、タイムスリップでもしたかのような錯覚に陥った。
言葉もないままにその様子にくぎづけの真貴の隣で、仁が面白そうに笑った。
「どうだ。ここがお前の生まれた世界、やまとだ」
「やまと?」
「あぁ、こっちじゃ日本って国はねぇんだ。ここはやまとのままだ」
仁の声が心なしか嬉しそうに聞こえて、真貴はその顔をそっとうかがう。
仁は目の前の風景に目を細め、口の端で笑っていた。
__そうか、ここは仁が育った場所なんだ。
__そして、俺が生まれた場所。
真貴はもう一度視線を都に戻した。
いくらもたっていないのに、さっきよりも随分明るくなっていてその風景をよく見
ることができた。
「おっ、来たな」
そう言った仁の視線の先を見ると、1台の牛車がゆっくりとこちらに向かってきた。
「えっ、牛?」
思わずのけ反った真貴を知ってか知らずか、牛は真貴のすぐ目の前で止まり低く鳴いた。
「よし、乗るぞ」
仁は手慣れた様子で牛車の御簾を上げると、あっけにとられて立ちすくむ真貴の背中を押した。
「ちょっと、仁。
やだよ、俺こんなの乗りたくないって」
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