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第4章 再会
上野の山は、本当に山だった。
単に小高い場所にあると言うことの比喩ではない、山と言われて誰もが想像する、まさにあの木々の生い茂る山だったのだ。
そんな山に電灯などあるはずもなく、頼みの綱は夜空に浮かぶ月明かりのみ。
薄ぼんやりとした月明かりの中を、前を行く仁の背中を必死に追って山を下りる。
地面は当然、木の根やら大小様々な大きさの石ころがあり、気を抜けば転んでしまいそうになる。
まさか故郷に戻り、最初にすることが本格的な山下りなどと誰が想像しただろう。
歩きなれないゴツゴツとした山道に何度も躓きそうになり、歩くことに集中するば自然と無口になった。
真貴の前を歩く仁は・・・と言えば不安な様子は一切なく、まるで昼間の整備された道を行くか如く軽快にその足を進めていた。
暗闇に時折聞こえてくる鼻歌が、仁がこの上なく上機嫌であることを伝える。
やっと山を抜けた時には、辺りはうっすら明るくなってきていた。
とは言ってもここは上野の山である。
不忍の池は山のふもと近くにある。
実際は全く大した距離ではなかったのだが、真貴にはことのほか長い距離に感じられた。
夜明けなのか、夕暮れなのかわからないような明るさの中に仁と真貴の目に飛び込んできたのは、この世界の都だった。
真貴は言葉を失った。
薄明りの中に広がる目の前の光景。
全体的に低い屋根が広がり、どれも木造のシンプルな造りだ。
街頭もなければ、煌々と明かりのついたコンビニもない。
高いビルなどは、当然ない。
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