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第1章 最後の”いつも通り”
「仁っ、珈琲入ったぞ」
「ん・・・、あぁ・・・・」
「ってかさぁ・・・、ソファーで寝るなよなぁ」
本人は目を開いているつもりのようだが、実際その目は殆ど開いていない。
のっそりとソファーからその体を起こした仁は匂いを頼りに手探りで珈琲へと手を伸ばした。
背後では慌ただしく真貴が出かける支度をしている。
「出かけるのかぁ?」
「はぁ? 普通に学校だろ。学校っ」
「・・・あぁ~学校・・・ね・・・」
冬眠明けのクマのような仁の姿に、真貴は小さなため息を漏らした。
珈琲が置かれたリビングテーブルの上には、朝方までかかって書き上げたと思われる原稿の束があった。
「〆切・・・今日なんだろ? 書けたのか?」
「あぁ・・・・、なんとかな」
「編集の槙原さん昼過ぎには来るって、さっき電話あったぞ」
「んーーーー、昼・・・すぎね・・・」
「最後くらいちゃんと起きて迎えてやれよ」
「・・・・そだな・・・」
丸めた背中に毛布を被り、ボサボサの長髪はだらしなくひとつに括られ、クマと無精髭で飾られた顔は完全に重力の為すがままである。
「まったく・・・。大丈夫かよ。
この中年のどこがイケメン小説家なんだかなぁ・・・・。
あんまり世の中を騙すとバチあたるぞ」
「ん――・・・」
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