事実は小説よりも・・・

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 女は  ちろっ  と口の端から舌をのぞかせる。夜闇にそれは黒く見える。 「植木はけっこう多いわ。古い家だから庭も広いし・・・・・・そう、土もたくさん、あるわね。  そう、その気になれば、何でも埋められるほどに・・・・・・ね」 「何を言いだすんだ。え? 何でも埋められるって? 妖気だって? ばかばかしい。それじゃ、まるで」 「まるでーー何? まるで、何だというの?」 「そッ」  男は言いかけた言葉を飲み込んだようだった。  そうして。  自分をじっ、と見つめているビーズのような女の目から顔をそらした。 「いやーー何も。変なこと言いだすなよ」 「言いだしたのはアンタよ。でも」  女は初めて  きゅっ  と、唇の端を吊り上げて微笑むのだった。 「でも。あんがい、それって本当なのかもしれないわねえ。  屍体が桜ーー花を美しくするというのなら。  妖気を感じるほど美しくなるというのなら。  『応用』も利くんじゃないかしら?」 「は? 『応用』だって?」  今度は男の方が、女の顔を凝視する。  けれども女は視線を前にーー桜並木の彼方の闇にすえたまま言い続ける。 「去年から薔薇を増やしたんだけれど・・・・・・みんな元気で、花もキレイだし・・・・・・そうね。怪しいほどキレイだわ。アタシの花たち。確かに桜じゃあないけれど。でも、ほんとうに」 「おい・・・・・・まさか、その薔薇の下にーー土のなかに。何か埋っているとか言いだすんじゃないだろうな? 悪趣味だぞ。冗談にしたって、そいつは」  これも野外灯のせいだろうか。  女の不健康な顔色よりも、男の顔はもっと不健康に蒼ざめて見える。  けれども、そんな男の荒い語気をまったく意に介することなく。女は独り言のようにつぶやくのだった。 「フツ―の人なら、怖いわよね。アレが身近にあるなんて」 「・・・・・・」 「そう思うだけで夜も眠れなくなるかしら。四六時中、気分がすぐれないかしら」 「・・・・・・」 「もしも、アレが自分の庭にあったなら。こんなところには住めないと逃げ出すかしら。フツ―なら?」 「・・・・・・」 「でも、肥料だと思えば。べつだん、大したことじゃないかもね。肥料とわりきれば。そう、どうせならもっとたくさん。もっと大きなモノの方が効果的かも。フフフ・・・・・・」 「・・・・・・」    
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