4人が本棚に入れています
本棚に追加
女が唐突に顔を男の方に向ける。
「あら、どうしたの? 黙りこんじゃって。フフフ。冗談よ、おばかさん。本気にでもしたの? アンタ、体のわりに神経が細いのねえ。フフフ・・・・・・」
「冗談? 冗談にしたってーー悪趣味が過ぎて」
男の声はかすれて、語尾が聞き取れない。
フフッ
夜闇のなかに女の笑い声が低く響く。
低くーー長く・・・・・・。
その手のあたりで、何かが野外灯の光を反射したようだ。
背も高く、体格のいい男の顔は、
くしゃくしゃの、ちり紙みたいに歪んでいた。
満開の、それはそれは美しい桜の花の下に、もっともふさわしくない表情だった。
女の悪趣味きわまりない物言いに引いて、不快さを顔にあらわしているのでなければ。
男は何かの痛みを感じているのかもしれない・・・・・。
最初のコメントを投稿しよう!