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突然の語りかけに驚きつつも横を見ると、いつのまにか老婆が傍(そば)に立っていた。
その老婆は雪のような白髪で、喉に巻いている桜色のスカーフが彩る、品が溢れる小柄な女性だった。
老婆は若者に優しく微笑むと、それに釣られてか、ついこちらの口が開く。
「寿命が? 桜って木でしょう。木は何百年も生きるものでしょう?」
「ふふ、何を言っているんだい。まあ、確かに山桜(ヤマザクラ)さんや枝垂桜(シダレザクラ)さんは何百年と長寿だけど、この染井吉野(ソメイヨシノ)の寿命は約60~70年ぐらいなんだよ」
「意外と短いというか……。なんで、その桜(ソメイヨシノ)は寿命が短いの?」
「なんでだろうね。まあ、染井吉野(ソメイヨシノ)は、人の手によって作りだしたものだからかもしれないね」
「人の手? あ、確か染井吉野(ソメイヨシノ)は江戸時代に交配して作られたとか聞いたことがあるような」
「そう。けど、染井吉野(ソメイヨシノ)は短命だけど、もっとも日本全国に植えられた桜でもあるのよ。この桜はね、私が小さい頃に、ここに植えられてね。70回以上も花を咲かせてみたけど……まだまだ咲かせたかったでしょうね」
「それだけ咲いたのなら充分じゃないの? 咲きたくても咲けないヤツだっているのに……」
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