桜の木の下で

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「ふふ、いくつになっても花を咲かせたいものよ。それは木でも人でも変わらないと思うわよ。そうだそうだ、知っているかしら。桜の花はね、寒ければ寒いほど沢山の綺麗な花が咲くのよ。厳しく辛い環境を耐えたからこそ立派な花を咲かせるのね」 「厳しく、辛い……」 「あなたは、まだ若いじゃないの。これから何度でも、いくらでも花を咲かせることができるわ。けど、この桜はもうダメかしらね。まあ、いつまでも年寄りが出しゃばるのもね。けど、もう一花ぐらい咲かせて見たかったわ」  そう老婆が名残惜しそうに言うと、突然強い風が吹き抜けた。  思わず目をつぶってしまい、再び目蓋(まぶた)を開いた時には老婆の姿は居なかった。  辺りを見回すも、在るのは老いた桜の枯木だけ。  改めて枯木を見つめる。  先ほどまで自分と同じ惨めさな親近感があったのに、今は昂然(こうぜん)とした威厳を感じた。  それは長い間、厳しい寒さを乗り越えて何度も花を咲かせ続けた老いた桜を尊重していた。 「厳しく辛い環境を耐えたからこそ立派な花を咲かせる、か……」  心に残った老婆の言葉を囁いた。  いつまでも落ち込んでいても意味は無い。  厳しく辛い環境は絶好な機会。これを耐えて乗り越えれば立派な花を咲かせられる。  ここから頑張っていけば良いのだ。     
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