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ふと澪は、袖をまくった塁の手首に目が吸い寄せられた。
黒いブレスレットのような模様がある。
あの、モデルの男の子がしていた位置に、同じタトゥー。
息をのんだ澪の視線の先に気づいて、塁はさりげなく袖をおろした。
その仕草にハッと顔をあげると、塁は避けるようにパッと顔を背けた。
その瞬間、塁の前髪が揺れて、その目元がちらりと見える。
モデルの男の子と同じ、目元の位置にホクロ。
まさか。
黙りこんだ澪に、塁は少し慌てた様子で「じゃ、」と教室を足早に出ていった。
一瞬だけしか見えなかったけれど、色っぽい印象をもつその位置。
タトゥーなら憧れで同じものをいれている、で済むけれど、ホクロはそうはいかない。
茫然としながら澪はスマホをとりだした。
あのモデルの男の子のうろ覚えの名前を検索する。
すぐにヒット。
ルイ。
都内に通う人気急上昇中の現役高校1年生モデル。
名前も同じだ。
宅間先生の物言いや、常日頃の塁の人目を避けるような行動を思い出す。
人気モデルが、クラスメイトだって知ったらもちろん大騒ぎになる。
そう思うと、いろんな点と点が結びついた気がした。
周りに知られたくなかったのだ。
だから、いつも俯いて、人と話をすることもない。
澪は、奥歯を噛み締めた。
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