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紺のブレザーにパーカーインのスタイルで、フードで顔を隠しているかのような男子。
背は高くすらりとしているのに、常に俯きがちで、そこからのぞく顔も、目は伸びきったような黒い前髪に隠れ、薄い唇は笑みを刻んだことがないほど無表情だ。
いつも耳にイヤフォンをしていて、挨拶の言葉さえ届かない。
和知 塁。
澪が高校に入学してから一度も話をしたことがない隣の席の人。
授業のサボりも多く、出席していてもほとんど寝ている。
起きていても、まるで周りを拒絶しているかのように張りつめた雰囲気の持ち主だった。
塁は澪の存在に気づいていないのか、視線を寄越しもせず、自分の席へ向かう。
そういえば、彼だけが保護者面談のプリントを提出していない。
集まっていない最後の1枚が、塁のものだった。
「あ……あの、和知くん」
イヤフォンをした塁の耳に、澪の遠慮がちな声は届かない。
上半身を倒すようにして机の中を探っている。
「あの!」
大声を出したつもりでも、振り向いてくれない。
体が比較的小さいせいもあるのか、澪は声も小さい。
母にも友達にもはっきり言ってとまで言われる。
澪は諦めたように、仕方なく床の残りのプリントを拾い始めた。
その時、ぼそりと機嫌の悪そうな声がした。
「……なに?」
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