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ハッと顔をあげると、目深にフードをかぶったまま塁が面倒そうに澪のそばに立っていた。
背の低い澪には、背の高い塁はどこか大きく見えて、きゅ、と胸の奥が縮む。
隣同士だけれど、怖い。
小さな頃から、澪は男子の無愛想さが威圧されているように思えて苦手だった。
「あ、あの」プリントのことを言うだけなのに、つい焦って声がうわずる。
慌てる澪に、明らかに塁が苛立ち、片足を軽く揺らし始めたのが分かった。
よけいに、不安と怯えが焦りを深くする。
「急いでるんだけど」
「ご、ごめんなさい……」
澪は震えそうになって、プリントをもつ指先に力を入れた。
「……で?」
「その……保護者、面談の」
「それさ、宅間からなんも聞いてないの?」
「え?」
「宅間に聞いて」
突き放すように言うと、塁はさっさと身を翻して教室を出て行く。
引き止める間もない。
がらんとした教室が寂しくなって、澪は俯いた。
はっきりものを言えないせいで、よく相手を苛立たせてしまう。
すでに窓の向こうは、オレンジ色の光さえ弱くなって、グラウンドの声ももう聞こえない。
黄昏ゆく下校の時間が、澪の周りに取り残されている。
残すはプリントの提出だけ。
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