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トゲみたいに痛いけど、
ああ、和知のはもう分かってる。これからはオレが直接やりとりするから、気にしないでいい。
担任の宅間先生はそう言って、澪が集めたプリントの束を受けとった。
なぜ塁だけ別扱いなのか不思議に思いながら、誰もいない教室を見渡した。
待っていたのは、ベランダのサボテンくらいだ。
澪は、ベランダに出てサボテンに手をのばした。
「いたっ」
ぷつりと、指先に赤い玉が膨らんだ。
トゲで刺してしまったらしい。
舐めると錆びた味が口にほんのり広がった。
なんだか、塁に似ている。
トゲトゲしていて、触れると痛い。
でもサボテンは、一見トゲだらけでも、その内部には水を多く蓄えている。
水やりを頻繁にするとむしろ逆効果で腐ってしまうほどだ。
ふいにカーテンが大きくふくらんで、ばさりと音をたてて、澪はびくりとした。
閉めたつもりだった窓が一つ開いていたらしい。
閉めようと慌てて教室に入った時、がくんと体が前につんのめった。
机に足をひっかけたらしく、椅子が大きな音を立ててひっくり返った。
同時に、教科書やノートがばさばさと落ちてきた。
「……ったあ……」
強く床に打ちつけた膝をさすりながら、周りに散乱した机の中身を見渡す。
新品のように綺麗な教科書とノート。塁のものだ。
拾い上げると、その隙間から紙が1枚はらりと落ちた。
どうやらメンズファッション雑誌のページを切り抜いたもののようだった。
細身のジャケットを着こなしたスタイルのいいモデルの男の子が、カメラのこちら側へと無邪気に笑いかけている。
軽くウェーブがかった黒髪といい、ジャケットからのびた腕や交差させた足といい、しなやかそうだ。
手首に刻まれたタトゥーはブレスレットのように幾何学的な模様をぐるりと描いて、それがマスクの甘さだけではない硬派な雰囲気を醸し出している。
同い年のように見える。
でも、目元のホクロが色っぽくて年上のようにも見えた。
ただそれよりも、澪はその切り抜きの持ち主が、塁であることが意外だった。
いつも無表情な塁でも、クラスの他の男子と同じようにメンズ雑誌を気にするんだ。
そう思うと、さっきの怖さも少しだけ薄らいだ気がした。
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