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ほんの少しだけ、近くなれた?
「じゃあこの問題は、誰に解いてもらおうかしら」
数学の篠島先生が教室を見わたした。
その視線が、一瞬だけ隣の塁にとまり、ふっと逸らされる。
翌日、いつも通りに登校してきた塁は、いつも通り澪に見向きもせず、机に突っ伏すようにしてひたすら眠っていた。
それは篠島先生の数学の授業中でも変わらない。
お情け程度に教科書をたててはいるけれど。
「和知くん」
スルーかと思われた先生の声は、容赦なく隣を呼んだ。
反応はない。
「和知くん、いないのかしら?」
篠島先生の声がかすかに尖った。
いつもならノートに目を落としてやり過ごすけれど、無視できなくて名前を呼んだ。
塁のほんの小さな一面を知っただけだ。
でも無表情だけじゃない塁が垣間見えて、隣の席が近くなった気がする。
些細なことでも、隣の席としてはちょっと嬉しい。
「あの……指名されてるよ」
ささやくように言うと、かすかに頭があがった。
そのまま塁はけだるげに上体を起こして、立ち上がった。
一瞬、自分が置かれた状況に戸惑ったように見えて、澪は教科書の問3を指さした。
塁は前髪の奥でそれを認めて、かすかに頷いたようだった。
でもその時、「御園生さん」と篠島先生の声が響いた。
「は、はい」
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