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トゲの向こうに、隠してるもの。
掃除当番のペアの男子はいつのまにか姿を消している。
ごみ出しと言って教室を出て行ってから、戻ってくる気配がない。
誰も真面目に掃除なんてしてないかもしれない。
でも澪はおとなしく掃除を続けた。
後は椅子を下ろせば掃除を終えられる段階になり、疲れた体をほぐすように両腕をあげて伸びをした。
もう窓の外は暗い。
ふとベランダのサボテンが視界に入る。
風雨にさらされて、それでも無言で存在を主張している。
やっぱり塁みたいだ。
塁は、自分をしっかり持っているように思える。
澪は、掃除用具箱から霧吹きをとりだして、水を汲みに廊下に出た。
薄暗く、まっすぐのびる廊下に、人気はもうない。
昇降口の方から「さようなら」と聞こえてくる。
水を入れ終えて、教室に近づいた時だった。
がたん、と教室の中から続けざまに音がする。
椅子をおろす音だ。
ようやく戻ってきたのかと思いながらドアを開けると、意外にもそこにいたのは塁だった。
この前みたいに忘れ物、だろうか。
でも彼は、淡々と椅子をおろしている。
手伝ってくれているのだと分かり、胸の奥に小さなぬくもりがともったような気がした。
思わず、さきほど刺さった言葉も忘れて、声をかけた。
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