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「あの、和知くん、ありがとう」
嬉しそうな笑みを浮かべた澪に、塁はフードの頭を緩く振った。
「……数学ん時とか、きついこと言ったりとかして……、その……ごめん」
軽く、塁は頭を下げた。
怖い人でも、もちろん、嫌な人でもない。
塁は、ただ言葉を飾らないだけだ。
そう気づく。気づけたことが、嬉しい。
「謝らなくていいよ。言われたことはちょっと痛かったけど、……でも、本当のことだし、」
サボテンに水をやろうと窓際に近づくと、塁もまた少し窓際に近づいた。
「それ、……水やんの?」
「うん」
「……ずっと放置されてて……枯れてない?」
「全然。サボテン強いから……」
「ふうん……」
会話できていることが奇跡みたいに思えて、澪は聞かれてもいないのに言葉を続けた。
「それに誰に見向きされなくても、自力でまっすぐ生きてるのに、こっちが先に諦めるって、なんかいやだなんだ……」
言いながら照れくさくなって、霧吹きで水を吹きかけてごまかした。
「トゲがすごいけど、内側は水をしっかり蓄えてて。目で見えるものだけがすべてじゃないんだよね」
透明な水がトゲに丸い粒をつくって、鉢の中の砂土が湿り気を帯びていく。
塁は、わずかに澪との距離を保って、それを黙って見つめた。
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