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となりの席のひと
夕陽の逆光の中で、ベランダにサボテンがぽつんと残されている。
誰かが放置してしまったらしい。
窓から目をそらして、教卓に集めたプリントを置いた。
その時、熟れた果実のような匂いをのせた風がさあっと教室に入ってきて、手元のプリントを攫った。
慌てて抑えても、何枚かが翳りかけた太陽の光を横切って、飴色の机や椅子の間にブランコのように揺れながら落ちていった。
「あー……」とつい声をもらす。
思ったより教室に響いたのは、あまりに教室に人気がなくてしんとしているからだ。
ただ窓の向こうから、グラウンドに響くサッカー部や野球部のかけ音だけが遠く聞こえてくる。
じじ、とざらついた音がして、
「1Bの学級委員、1Bの御園生澪。御園生澪、国語科教員室に来るように」
自分の名前が黒板の上のスピーカーから聞こえてきて、思わずびくりとした。
きっと宅間先生がしびれを切らしたんだろう。
急ぐように腰をかがめた時、きしんだ音を立てて教室のドアが開いた。
「す、すみません! 今もってこう……と……」
言いながら振り返ると、そこにいたのは、先生ではなく隣の席の人だった。
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