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その甲斐あってか、ここ最近では紫月も自分自身を取り戻しつつあり、時折は笑顔も見せるようになってくれた。まだまだ永い年月が掛かるだろうが、彼が遼二を大切な思い出として受け止められるようになるその日まで、氷川はずっと傍で見守り続けていこうと決めたのだ。
その紫月が寂しげに苦笑いながら肩を落としている。遼二が亡くなってからまだ半年程だ、それも致し方なかろうが、それにしても今夜の彼はいつもと少し感じが違う気がしてならない。
「なぁ、氷川――」
未だ空を見上げたままで紫月が言う。
「何だ」
「俺――俺さ、あいつを……遼を忘れねえって誓った。生涯、遼だけだって約束もした。なのによ――それなのに……」
「一之宮――?」
「寒くて仕方ねん……だ。寒くて……誰かに温っめて欲しくて……仕方ねえ」
「一之……」
「だってさ……だって、どんなに寒くても、どんなにあいつを好きでも……遼は……もう俺を温っめてはくれねえもんな。すげえ……辛えんだ」
紫月が呟いたその内容にも驚かされたが、もっと驚いたことには、突如として身を翻し、彼が抱き付いてきたことの方だった。
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