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魔剣
日本で言うと春の陽気。
ここが日本であれば、縁側でお茶を飲みながらホトトギスの鳴き声でも聞いていたいところだ。しかし、現実はここはニホンどころか地球でもない。
たくさんの資料の海に溺れそうになりながら、うんざりしていたところに、朗報が転がり込んで来る。
「え、魔剣見つかったの?」
「はい。」
「早くない?それって本当に魔剣なのかなぁ?」
困惑。
私が、大貴族ダレン・フォン・バイルシュミットに魔剣を探すように急かされ、嫌々ながらも兵を派遣をしたのが2週間前のことだ。
「今回は、たまたま早く見つかったみたいですね。」
黒髪、長身の側近を見上げると彼は微笑んだ。
ナイト・コートフィールド。
彼を一言で表すなら、爽やか好青年、だ。
しかし、その実態は多くの兵に恨まれている裏切り野郎、らしい。
恨みを買われるような人間には到底見えないが、それは私と出会うはるか前の出来事と深く関わっているらしい。
「どう致しますか?マコトの命とあらば第1兵隊を出すこともできますよ。」
たまたま傍に居合わせた直属の臣下は提案をした。
窓から入って来た風が彼の金髪をなでるとそれはキラキラ輝く。
碧色の澄んだ瞳は、一度魅入ると目を離せなくなってしまいそうだ。
第1兵隊長エリアス・ヴェーラー。
この美少年は私よりずっと年上であり、とても頼りになる。
そして多くのメイドの目の保養であり、それは他の兵、、、いや、自重しておこう。
「うーん、どうしよっか。」
隣の机で、資料に目を通して会話に入ってこないもう一人の臣下を見ると、彼はその視線に気づいたようで、私と目を合わせた。
「・・・・・。」
無言の圧力。
ガタイが良くて、オールバックの黒髪は今日もかっちりと固められている。
彼の紫色にも見える濃い碧色の瞳は高貴な証だそうだ。
今のところ彼の仏頂面が崩れたところをマコトは見たことがない。
怒っているようにも見えるが、実際のところはそうではないという。
強面、というのだろうか。
ダレンと同じく高貴なフォン・バイルシュミットの血を引く彼は自身が陰で【紫の鬼】と呼ばれていることを知っているのだろうか?
その通り名を聞いたとき、「わ、ちょっとださいな」と思ってしまったことは内緒だ。
しかし、この世界には実際【鬼】という存在が存在するらしい。
だいたいこの世界の設定はデタラメだ。
洋風にしたいのか、和風にしたいのか、舞台を現代にしたいのか中世にしたいのか欲張りにもほどがある。
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