魔剣

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長時間、馬の上でゆられついつい眠たくなってしまう。 馬の上で寝るなんて器用な奴だな。 過去にそう私に言ったのはかつて、兄のように慕っていた人だ。しかし、その声を聞くことはもうない。 アルトはもう死んだのだから。 血で濡れた剣先。 胸を剣で突き刺されていた姿が脳裏をよぎる。私を逃がすためだ、、、 駄目だ。駄目だ。 やめて! 燃えるような緋色の瞳がこちらを向く。 それを振り払うようにマコトは頭を振った。門の手前で見たのはきっと別人に違いない。 もう、すべて終わったことなのだ。 緋色の瞳の男、前国王の二クラスにも、もう会うことはない。 「マコト、大丈夫かい?」 はっとし、目を開けると、エリアスが心配そうに覗き込んでいた。 「眠いのかい?」 「うん。でも大丈夫。」 「僕の後ろに乗るかい?それとも前がいい?」 「いや、本当に大丈夫だから。」 余計な心配をさせてしまったな、と後悔する。 「それにしてもナイト遅いなぁ」 私がそう言うとエリアスは神妙な面持ちで頷いた。その表情に違和感を感じる。 先頭を引いてくる、と言ったナイトは長い間、私のもとを離れたままだ。 「あっ、いたいた!」 前方に深緑色の軍服に紛れて白の軍服が見える。 いつも側にいる人がいないというのは、案外不安だ。
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