番外~草原の花咲く丘で…~(後編)

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・ ラティーファはそんな愛美に気づいた。 「……?…マナミ?パンのおかわりは?要らない?」 小さな丸いパンを差し出され、マナミは首を横に振る。 最初に三つも皿に貰った。これ以上はもう食べられない。 「今食べないと後はないわよ?」 「ええ、もうお腹一杯で…」 戸惑う愛美の前にザイードは手を伸ばす。 「俺が貰う。マナミは少食だ……日本人は胃も“何もかも”小さいからな」 「──…っ…」 意味深な笑みを浮かべ、悪戯にちらりと愛美に視線を流す。そんなザイードに愛美は赤くなって目を見開いた。 母は自分の妻をからかうザイードを、遠くから鞭でも打つように叩く仕草をして叱る。 楽しそうに笑って居るのはその場にいる男衆ばかりだ。 子供達は深い意味もわからず、皿に残った最後の料理を丁寧に分けあっていた。 今だ赤い顔でザイードに何か反論している様子の愛美をラティーファは見つめる。 そして、怒っている愛美に対してとても楽し気なザイードの表情を眺め、ラティーファの顔は自然と頷いていた。 随分と優しい顔つきになったものだ。ラティーファはこれまでにも何度と自分の元へ顔を見せに来ていたザイードの姿を思い出しながら、今、目の前にある表情とを比べていた……。
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