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静かな夜。草木が風に靡く音が聞こえる──
ひとときの団欒を憩い、親戚達は早々と我が家へ帰り、母と祖父が寝静まった母屋から愛美を連れ出したザイードは夜の散歩へと外へ足を伸ばした。
「……いい香り…」
「ああ……気が安らぐな」
深い緑の爽やかな香りが夜風にのって胸の奥へと運ばれる。
深呼吸をしてその香りを味わうと、二人自然に見つめ合い、笑みを浮かべた。
ザイードが居た邸の庭の緑とも、父王のお気に入りの城の庭の緑とも、またひと味違う緑の香りだ。
一体何が違うというのだろう──
「……土だな…」
ザイードはぽつりと口にする。
「……土?」
「ああ……土だ…大地の香りだ」
「………?」
「……ずっと昔から不思議に思っていた……」
ザイードは静かに耳を傾ける愛美にぽつりぽつりと語り始めた。
とても幼い頃、母に連れられて何度か足を運んだこの大地。
風に踊らされて毎回姿を変える砂の国の大地とは違う、根を張る緑に覆われたしっかりとしたこの地。
そして湿りを含む土の匂い。
砂漠の埃っぽい砂の香りとはまた違う、水の養分をたっぷりと含んだ恵み豊かな香りだ。
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