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「……ここへ連れて来られる度に空気を思いきり吸って遊んだ。まるで食べるみたいに口を動かして……」
「……ふふ…空気を美味しいって、思ったんだ?」
「ああ。そうだな……今実感した……子供ながらにここの空気を美味いと思ったんだろう……」
ザイードは微笑ましげに自分を見つめる愛美に笑みを返す。
愛美はザイードに寄り添って胸にもたれた。
そんな愛美の肩を抱いてザイードは夜空を見上げる。
幾千の星が煌めく空──
その下でこうして愛する愛美と共に過ごす。
満ち足りた今に何も不満は沸いてこない──
これでいい。
ただ、こうして居られるだけで幸せだ。
あとは無事に子が産まれてくることを心から願うのみ……
ザイードは愛美の肩を引き寄せこめかみに口付ける。
「明日は早い──……そろそろ戻って今夜はゆっくり休もう」
優しく声を掛けるザイードに愛美も頷き返す。
明日は初体験のヤギの乳搾りが待っている。
それを思い出すと少しばかり気が引き締まる。
愛美は歩きながらザイードを見上げた。
「ねえ、ヤギの乳搾りって難しい?」
そう尋ねられ、暫く考えたザイードは愛美に返した。
「今から練習してみるか?」
「今から? 何で?……ヤギで?」
「………」
「………ザイード?」
気まずそうに額を掻いたザイードを愛美は覗き込む。
ザイードは目を反らすと多くを語らず、愛美の手を握り二人に用意された母屋の離れへ入って行った……。
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