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「マナミ! 支度はできたかしら?」
「あ、はいっ…」
空高くから陽が射し始めた頃──
離れを覗いて声を掛けた母、ラティーファに愛美は返事をしていた。
砂漠の国の衣装では、ここでの作業に何かと不便だろうと、ラティーファが用意したこの土地の民族衣装に愛美は着替えを済ませていた。
長いスカートだが、砂漠の風に舞いやすい布とは違い、生地がしっかりしていて重厚感がある。
丈は少し短くふくらはぎが覗く位置だ。
愛美はその下に赤と黄色の糸の刺繍が入った革の長靴を履いた。
シンプルな白い麻のシャツに色鮮やかなチョッキを羽織り、愛美は全身を前後ろ眺める。
それらは息子、ザイードに嫁ぐ愛美のために、ラティーファが全て手作りした民族衣装だった。
「これでいいかな」
呟いた愛美は外へと出る。ラティーファは入り口で待っていた。
「こんな感じでいいですか」
「ええ、ちょっと待って」
ラティーファは尋ねた愛美の腰に腕を回した。
仕上げにスカートの上から巻いた幅広の布ベルトをラティーファは簡単に結び直す。
帯のように、キュッと力を入れて締めるとラティーファは笑った。
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