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「これでいいわ。ぴったりだったみたいね」
「はい! ありがとうございます」
ハイウエストの位置に収まったベルトで身体の軸がぴしっと伸び、お礼を返した愛美にラティーファは頷く。
「動いてるうちに身体に馴染んで緩んで来るから、最初は我慢して。……じゃあ行きましょう」
「はい」
準備を整えた二人はヤギのいる小屋へ足を向けた。
ザイードは愛美が目を覚ます前から床から姿を消していた。
小屋へと向かうとそこから望めた丘の斜面の遠くにザイードらしき人影が見える。
馬に乗り長い棒を操りながら、ザイードは朝早くに放牧したヤギの群れを、叔父と共に小屋へ誘導していた。
「おはようさん。おお、ぴったり似合っとるな」
祖父のナーセルが民族衣装を纏った愛美を見て「シシシっ…」と、すきっ歯で笑う。
挨拶をすませるとナーセルはおもむろに、手にしていた鈴をチリーンと数回鳴らしていた。
小屋の近くまで集まってきたヤギが牧場の柵の中へと自分から入っていく。
まるで学校の授業の鐘を聞いた生徒のような利口な山羊に愛美は驚いていた。
ナーセルは語る。
「ほとんどのヤギはこの鈴一つで動くんじゃがな……たまーにザイードみたいな聞かんタレがおるんじゃ……あの仔ヤギみたいに」
「ぷっ…」
肩を竦めたナーセルに愛美は思わず小さく吹き出した。
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