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ヤギの群れから一番離れた遠く。そこに一匹の仔ヤギが立ち往生している。
ザイードと叔父に棒で追われる度に、その仔ヤギはちょこちょこと方向を変えては逃げ回っていた。
「はあっ…ほんとに言うこと聞かない奴だ」
尻を棒でつつかれた仔ヤギは、助けを求めるように一目散に群れの元へ駆け寄ってくる。
手前で散らばるヤギを集めながら小屋へやって来たザイードは思わずそう溢していた。
その様子に笑った愛美に気づき、馬で駆けてきたザイードは動きを止めた。
母親が手作りした民族衣装を身に纏った愛美にザイードは一瞬目を見張る。
そして嬉しそうに笑顔を見せていた。
「あの牝ヤギ以外は向こうの柵へ連れていって」
「ああ、わかった」
馬から降りたザイードにラティーファは次の仕事を言い付ける。
「マナミはその桶を持って付いてきて」
「あ、はい…!?っ…」
慌てて目の前を通り過ぎようとした愛美の腰をザイードの腕が掴まえていた。
グイッと引き寄せた愛美の耳元でザイードは囁く。
「肌の露出は少ないが…その姿もたまらなく可愛い……」
「──……」
愛美のうなじにボソリと熱い息が当たる。
愛美は真っ赤に染まっていた。
二人きりならまだしも義理の母や親戚がいる手前だ。
直ぐに愛美を手放したものの、ザイードは藁の束でラティーファに尻を叩かれていた。
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