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「仔ヤギもお前も手が掛かってほんとしょうがないったらありゃしないっ…ここは砂漠の国とは違うんだよ!ちょっとはマナミにも気を使いなさいっ」
気まずそうに俯き顔は赤いまんまだ。
そんな愛美を振り返り、ザイードは笑う祖父と叔父に向かって肩を竦めた。
相変わらず強いままの母だ。
そして、愛美にはそんな母親を前にしたザイードはまるで少年そのものに見えていた。
ファジュル王国では見たことのないザイードの素顔。
父王にさえもキツイ口調で反論するザイードだが、この母にはほんとに頭が上がらないらしい。
ラティーファに叱られて、バツが悪そうな顔を見せたザイードに愛美は逆に気がほぐれていた。
「さ!早く仕事始めて」
場を仕切ったラティーファの声に、当たり前のように叔父もザイードも仕事に取り掛かる。
ラティーファは群れの中から選んだ三頭の牝ヤギを愛美の前に並べた。
愛美は少し驚きながら尋ねた。
「乳搾りって……三頭だけ……ですか?」
「ええそうよ。どうして?」
「いえ……母ヤギってまだ沢山居たみたいだったから……」
疑問を浮かべながら遠慮がちに問いかける。
そんな愛美にラティーファはふふっと笑った。
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