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「マナミは仔ヤギに乳をあげず、母ヤギ全部の乳を搾る気かしら」
逆にそう問われ、愛美はえっ?と戸惑った。
ラティーファはそんなマナミを笑いウインクする。
「今のは冗談よ。でも今日搾るのは三頭……明日も三頭……」
「………」
「毎日、三頭の母ヤギを選んで乳を搾るの。……特別な何かがない限り、三頭だけ乳を搾ってその恵みをあたし達はいただく……それ以上の搾取はただの“無駄”でしかないわ……」
ラティーファは後ろで話を聞いていた愛美を振り返る。
「じゃあ、マナミにはこの子の乳を搾ってもらおうかしら」
そう語ったラティーファの言葉に愛美の顔は自然と頷いていた。
毎日、必要な分だけを生き物からもらう──
“もったいない”なんて言葉がありつつも、日本には沢山の無駄がある──
だからこそ、捨てられる物も溢れているというのに……。
「マナミ? 準備は出来たかしら?」
「あ、はいっ…」
考え込んで立ち竦む愛美にラティーファは声を掛けた。
「この子なら搾りやすいと思うわ。ほら見て……」
ラティーファはそう言ってしゃがんだ愛美に母ヤギのお腹を見せる。
その母ヤギの乳はパンパンに張り、乳頭の先からは白いミルクが雫となって滴っていた。
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