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電気も何もかもが十分ではない村だが、不自由と思うこともなければ争いもない。
それはこの村が自然の恵みに生かされてきたからこそであり、そして皆がその事に感謝をしている。
ラティーファは草に直に腰を据え、黙ったまま一生懸命乳を搾る愛美を後ろから見つめた。
「もう帯はキツくはないようね」
愛美は急にそう話し掛けられて動きを止めた。
「あ……そう言えば全然……」
愛美は驚きながら御腹に手を当てる。
お腹を庇い、足を開いてしゃがんだ姿はお世辞にも美しいとは言えないが、身体に馴染んだ帯が程好く腰を支えてくれて、どちらかと言えばとても楽だ。
ラティーファは愛美の肩に手を置いた。
「よかったわ。ザイードに聞いたら飯を食って居ないんじゃないかってくらい痩せ細ってる。なんて言うからかなり小さめに作ったのよ? 逆に小さすぎたらどうしましょうかしらって思ってしまったけど……」
身振り手振りで語ってふふっと笑みを向ける。
そんなラティーファを愛美は驚いた顔で見つめた。
「作っ……た…?」
「ええ」
「これを……?」
「ええそうよ」
何度か聞き返す愛美を見て、ラティーファは不思議そうな表情を漏らす。
「ここの伝統よ?嫁いできた花嫁に手作りの民族衣装を贈るのは……」
「………」
「マナミ?……」
初めてその事を知らされた愛美は目を見開いていた──
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