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「わあ、可愛いっ…」
平坦な小道の脇に並ぶ、童話の絵本から出てきたような、可愛らしい家を眺め愛美はそんな言葉を口にしていた。
乗り心地はけしていいとは言えない荷馬車にガタゴトと揺られ、それも旅の醍醐味だから。と愛美は隣で微笑むザイードに笑顔を向けた。
ザイードの母の生まれ故郷。その自然の素晴らしさを余すことなく愛する愛美に見せたいと、ザイードは山頂の近くの母の村よりもだいぶ手前の農村地帯でヘリを降りていた。
「ゲッドゥ(祖父)は元気でいるか?」
「ああ、馬に乗ってのんびり山羊追いをしてるよ」
母、ラティーファの末の弟。荷馬車の前に座り手綱を取る叔父にザイードは尋ねていた。
「それはそうと奥さんは揺れは大丈夫かな?」
ザイードは聞かれて愛美に目を向ける。愛美は少し目立ってきたお腹に手をやりながらザイードに笑みを返した。
「ああ。大丈夫だ、気遣って走らせてくれて助かる」
「いやいや、甥っ子の大事な子供だ。このくらい御安い御用さ。せっかくだからゆっくり景色を眺めてくれ」
大きな声で、前の方から話し掛けてくる。そんな叔父にザイードは礼を言い、そこから見えた景色の先に指を差していた。
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