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ラティーファは逆にその表情に驚いて声を掛ける。
「マナミ? 大丈夫かしら?」
「──……っ…」
喉に声を詰まらせて愛美はラティーファに何度も頷いて見せる。
「……っ…ごめんなさいっ…」
愛美はそんな言葉を急に口にしていた。
ポロポロと溢れ出してくる涙が止められず、愛美は目元を手で覆うように隠す。
「あたし…っ…ずっと緊張しててっ……」
「………」
唐突にそう切り出した愛美の言葉にラティーファは黙って頷いていた。
初めて訪れた土地、そして初めて会ったザイードの母。
これから自分が嫁いでいく先の夫の母に出会うのに、全く緊張しないということの方が難しい。
だから愛美なりにとても気を使い、この一日半を頑張ったのだ。
その頑張りが結局は裏目に出てしまった。
旅の疲れと緊張のほぐれぬまま床に着いた愛美はあろうことか、夫のザイードよりも朝遅くに義母であるラティーファに起こされた。
最初からこれではのんびりした嫁に思われたに違いない。
国王になる息子の嫁に相応しいのかと首をひねられたに違いない。
もしかしたら……。
ここでの数日で見極められて日本に返せと言われるかも知れない。
そんな不安を抱えたままの愛美に対してたしなめるでもなく、叱責するでもなく、普通に接してくれるラティーファに愛美は逆に気を張り続けていた。
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