番外~草原の花咲く丘で…~(後編)

20/27

117人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
・ ラティーファは逆にその表情に驚いて声を掛ける。 「マナミ? 大丈夫かしら?」 「──……っ…」 喉に声を詰まらせて愛美はラティーファに何度も頷いて見せる。 「……っ…ごめんなさいっ…」 愛美はそんな言葉を急に口にしていた。 ポロポロと溢れ出してくる涙が止められず、愛美は目元を手で覆うように隠す。 「あたし…っ…ずっと緊張しててっ……」 「………」 唐突にそう切り出した愛美の言葉にラティーファは黙って頷いていた。 初めて訪れた土地、そして初めて会ったザイードの母。 これから自分が嫁いでいく先の夫の母に出会うのに、全く緊張しないということの方が難しい。 だから愛美なりにとても気を使い、この一日半を頑張ったのだ。 その頑張りが結局は裏目に出てしまった。 旅の疲れと緊張のほぐれぬまま床に着いた愛美はあろうことか、夫のザイードよりも朝遅くに義母であるラティーファに起こされた。 最初からこれではのんびりした嫁に思われたに違いない。 国王になる息子の嫁に相応しいのかと首をひねられたに違いない。 もしかしたら……。 ここでの数日で見極められて日本に返せと言われるかも知れない。 そんな不安を抱えたままの愛美に対してたしなめるでもなく、叱責するでもなく、普通に接してくれるラティーファに愛美は逆に気を張り続けていた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

117人が本棚に入れています
本棚に追加