番外~草原の花咲く丘で…~(後編)

24/27
117人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
・ 「お母さん」と、もう呼んでしまってもいいのだろうか。そんなことについ気を使ってしまう。 しかし、もう嫁として認めてくれてはいるのだ。この手作りの民族衣装はその証しなのだから。 愛美は思いきり叫んだ。 「お母さん!…あの…っ…ちょっ…と」 丘の斜面を歩きなれた母の足腰はとても強い。 そして、とても速い──。 離れたところで愛美の叫ぶ声がする。 その前からラティーファの大声に気付いていたザイードが馬で駆けてきていた。 「どうした…っ…」 ザイードは前を勇み歩く母に尋ねた。 「あらザイード、父さんはどこ?電話を借りなきゃだわ」 「──……」 ザイードは平静に聞き返してきた母に面食らった表情を向ける。 「ナーセルなら仔ヤギにブラシを掛けている。厩舎の裏にいるはずだ──…だがマナミはどうした?」 ザイードは少し離れた先から一生懸命、丘を歩いてくる愛美を目にしながら問い質す。 先ほど聞こえたのは怒鳴り声のような響きだった。 昔、母から叱られた時に聞いた響きによく似ていた。 ザイードは愛美を怒鳴り付けたのかと、いささか不安になって慌てて様子を見に馬で駆けて来たのだ。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!